シロアリ駆除に使われる薬剤の種類とその特徴

シロアリ駆除に使われる薬剤の種類とその特徴

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シロアリ駆除には薬剤を散布する方法と毒餌を設置する方法があります。

自分の家の状況に合った駆除方法を選択することが大事ですが、シロアリ駆除に使われるのはいったいどんな薬剤なのでしょうか?薬剤の特性や効果の出方に違いがあるため、想像以上の種類の薬剤が存在しています。

この記事ではそんなたくさんの種類の薬剤の中から一般的に使われている薬剤やその効果をご紹介いたします。

 

世代ごとの薬剤の特性


シロアリ駆除の薬剤は古くは1950年代から歴史があり、様々な改良を経て、現代までの間に第四世代までの変遷があります。

この項目では世代ごとの薬剤の特徴についてご紹介していきます。

 

〇1950年代初期~1980年代半ば


最初のシロアリ駆除の薬剤は「有機塩素系」と言われる薬剤が使われていました。

この「有機塩素」は自然界にはほとんど存在せず、大半が人工的に生成されたものです。

有機塩素は生物への毒性が非常に高いという特徴があります。また、分解がされにくいという性質も持ち合わせているため、一度散布してしまえば半永久的に効果が持続するという特徴もあります。

シロアリへの駆除効果が高い反面、薬品臭が強かったり、土壌汚染につながるなどの問題点があることから使われなくなっていきました。

 

〇1980年代初期~2000年代半ば


有機塩素系の薬剤が使われなくなってから主流となったのが「有機リン系」の薬剤が主流となりました。

この系統の薬剤は殺虫性が非常に高いかつ分解されやすいのが特徴です。

ですが、住宅の気密性などが重視されるようになってから駆除に使用した薬剤によるシックハウス症候群による頭痛や吐き気が問題視され始めました。この有機リン系の薬剤はシロアリだけでなく生物への毒性が非常に高いため、人間にも影響を及ぼしてしまうのです。これを受けて2003年に使用が禁止となりました。

 

〇それ以降は人間への安全性を重視する流れに


有機リン系薬剤を使用したために人間に起こるシックハウス症候群は、気密性の高い住宅で薬剤が揮発(空気中に気体として舞う)することから起こるものでした。ですから揮発性のほぼ無い(蒸発しづらい)薬剤が使われるようになり、非常に安全性が高くなりました。

安全性を検証するための設備などにも力が入れられ始め、厳しい審査を設けることでも安全性を確保しています。

 

現在使われている主要な薬剤の種類


最初にもお話した通りシロアリ駆除の薬剤はとてもたくさんの種類が存在し、全てをご説明することは難しいです。

ですので現在使われている主要な薬剤を4つほどご紹介します。

 

〇ネオニコチノイド系


使用量が少なく、効果の持続時間が長い薬剤で、現在最も普及しています。

匂いがほとんどないのも特徴です。

たばこにも含まれているニコチンの殺虫成分を元に合成された薬剤で、特に昆虫に対して毒性のある薬剤ですので、人間には害が少ない薬剤です。

 

〇合成ピレスロイド系


この薬剤は低温の時に効果を発揮する薬剤のため、シロアリなどの変温動物に対して高い毒性を持ちます。

家庭用の殺虫剤などの大半にはこの系統の薬剤が使われています。

 

〇ホウ素系


ホウ素は防腐剤として使用されており、人間に対して安全性の高い薬剤です。

ですが、急性毒性はネオニコチノイド系より高く、必ずしも他の薬剤よりも安全とは言えません。また、防腐剤の元ですので家の木材の防腐効果も期待できます。

この薬剤は他の薬剤とは違い、シロアリがこの薬剤を口にして初めて効果が出るものですから、使いづらい薬剤であるともいえるでしょう

 

〇IGR剤(脱皮阻害剤)


シロアリは脱皮を繰り返すことによって成長をする生き物です。

この脱皮を阻害することによって成長をできなくし、致死させることが目的の薬剤です。

これは毒餌を設置する駆除方法の際に用いられる薬剤で、毒餌を巣に持ち帰らせて根本からシロアリを駆除してしまおうという考えです。

この薬剤の特徴として、安全性が高いことが挙げられます。この薬剤は脱皮を阻害する薬剤です。私たち人間は脱皮をすることはありませんから、実質的に無害であるといえるでしょう。

 

近年の薬剤が持つ特性


薬剤の歴史を知って、今の薬剤がいかに安全かということが分かったと思います。

大体の流れはご紹介しましたが、近年の一般的な薬剤、最新の薬剤はどのような特性をもっているのでしょうか?

この項目では最新の薬剤が持つ共通の特性、近年実際に使われている薬剤の特性をご紹介いたします。

 

〇遅効性


近年使われている薬剤は遅効性であることが多いです。
あえて効果が出るのを遅くすることによって、シロアリの働きアリがが巣まで薬剤を持ち帰ることを目的としています。巣まで薬剤が届くことによってシロアリを根本から駆除することが可能です。

また、効果が出るのが早いと、その場でシロアリが死ぬことになります。そうなってしまうとシロアリが死体を避けるようになってしまい、薬剤の散布が無意味になってしまったり別の箇所まで被害が拡大する可能性があるので、遅効性であることは合理的と言えますね。

 

〇非忌避性(ひきひせい)


「非忌避性」というと難しく感じてしまうと思いますが、簡単に言うと「シロアリが嫌がらない」ということです。

シロアリが嫌がらないといってもしっかりと効果はありますのでご安心ください。

シロアリが嫌がらないことによって、薬剤の近くを通ったり体に薬剤がつくことに躊躇がなくなります。そうなれば薬剤の成分がついた働きアリが巣に帰っていくこととなりますのでシロアリを根本から駆除することが可能です。

 

〇安全性


こちらは「人体にとっての安全がある程度確保されている」ということと、「薬剤の成分などを明示し、誰でも情報が得られるようにしている」といった二つの意味があります。

人体への影響について、もちろん薬剤である以上は「絶対に害がありません」と言い切ることは難しいですが、かぎりなく安全性は高いと言えます。

薬剤について明示してあるということについては、シロアリ駆除し使用する薬剤は怖い、危ないといったイメージを払拭するために透明性を確保し、消費者にとって安心できるかどうかについても考慮がされています。

 

〇耐アルカリ性


こちらはコンクリートが使われた住宅が増えたために必要な特性です。

コンクリートは「強アルカリ性」であるため、薬剤によってはコンクリートによって分解されてしまう恐れがあります。

せっかく散布しても分解されてしまっては意味がないですから、重要な特性と言えるでしょう。

 

〇最新世代の薬剤

近年は各世代にのっとっていない薬剤が多数開発されており、様々な系統の薬剤が出てきています。第四世代の特徴の他に大きな特徴として「超遅効性」というものが挙げられます。(遅効性:2~4時間 超遅効性:4~8時間)

特徴にフォーカスして簡単に系統を説明すると

 

・フェニルピラゾール系

 神経伝達作用を阻害し、神経系を抑制することによって広範囲に高い殺虫効果を発現する

・アントラニリックジアミド系

 筋肉細胞内の重要な器官に作用することによって、特に幼虫に高い効果を発揮する

 (シロアリは女王アリ、王アリ以外は幼虫)

・メタジアミド系

 脳に関わる大切な器官に作用することによって眠るように致死させる。

 他の薬剤に比べて予防効果の持続時間が長いことが特徴

 

〇最新世代の薬剤が開発された理由について


各世代にのっとらない最新世代の薬剤が開発された理由としては、現在の主流であるネオニコチノイド系の薬剤が「ミツバチなどの昆虫に対してよくないのではないか?」ということがささやかれ始めたことにあります。

これはシロアリ駆除の薬剤の話ではなく、農薬などとして畑にまかれているものの話です。時流にのって安全な薬剤を開発することは重要ですね。

 

最新世代の薬剤の種類


ここまでで近年の薬剤の特徴についてご説明してきました。では具体的にはどのような種類があって、どのような違いがあるのでしょうか?

この項目ではそこについて深堀りしていきます。

 

〇アルトリセット200SC


Sygentaが開発した、アントラニリックジアミド系の超遅効性の薬剤です。

この薬剤は摂取したシロアリの筋肉に作用することによってシロアリの動きを阻害し、食害を止めます。食害が止まるということはシロアリが餌を摂取できないということなので、シロアリを餓死させることが可能な、少し変わった狙いのある薬剤です。人体への安全性が非常に高いことも特徴です。

 

〇ターミドールHE


BASFが開発した、フェニールピラゾール系の遅効性の高い薬剤です。

この薬剤はシロアリに対して非常に強力に作用します。広がりやすいという特性も持っているため、再発の可能性が低くなります。

 

〇タケロックSC400


大阪ガスケミカルが開発した、メタジアミド系の他よりもやや遅効性の高い薬剤です。

この薬剤は2020年に発売された薬剤で、メタジアミド系の中でも最新の有効成分が使われています。

安全性が高く、においも出づらくなっているのが特徴です。

 

〇ネクサスピュア


アグリマートが開発した、フェニールピラゾール系の薬剤です。

この薬剤は従来使われてきた成分と近縁の化合物が使用されています。従来のものと近い効果は持っていますが、安全性、土壌吸着性がより高くなっているのが特徴です。

 

具体的にどう選べばいいのか?


ここまでで主要薬剤の種類、特徴に関しては理解できたと思います。

では実際に使用するとなった場合、どのように選べばいいのでしょうか?

まず前提として、どの薬剤を選んでも安全性は確保されているのですが、その中でも安全性を重視するのか、確実に駆除できるものを重視するのか、家族の状況や家の状況などによって適切な薬剤は変わってくると思います。

この項目ではあくまで一例として、薬剤の選び方をご提案します。

 

〇薬剤の元は劇物?


まず前提として、シロアリ駆除薬剤は生き物を殺す薬ですから「100%安全です!」と断言できるようなものはありません。原体(元となる化学物質)は劇物であることが多いです。

実際に駆除の現場で使用する際には希釈をするため「普通物」となるのですが元は劇物なので体に影響が出ないとは言い切れない訳です。(限りなく安全ではありますが)

 

〇小さなお子さんやペットがいて、安全性を重視したい場合


小さなお子さんやペットがいる場合などは体への影響ができるだけ少ないものを選びたいですよね。

先でもご説明した通り駆除の現場では薬剤を希釈して使用するためどんな薬剤でも【普通物】とはなるのですが、それでも心配だとは思います。

ご紹介した最新世代の薬剤の中で、原体の安全性で見るのであれば

・タケロックSC400

・アルトリセット

に軍配が上がります。難しくなりすぎてしまうので詳細は割愛させていただきますが、シロアリを研究している機関が安全であるとしています。

 

〇シロアリの被害が深刻化していて、すぐに駆除をしたい場合


シロアリの被害が深刻化していて、一刻も早く駆除をして対処をする必要がある場合、殺虫性の高い薬剤を使用したいですよね。

ご紹介した最新世代の薬剤の中から殺虫性の高い薬剤を選ぶ場合は

・ターミドールHE

が良いでしょう。遅効性の高いものではありますが、根本からの駆除ができ、再発の可能性を抑えることができるので結果的には早く駆除が可能でしょう。

 

まとめ


ここまで、シロアリ駆除に使われる薬剤の歴史から最新の薬剤の特徴、状況別の薬剤の選び方までご説明してきました。

薬剤の歴史から時代の背景なども読み取れてかなり興味深かったですね。

ここまでの内容をまとめると


・シロアリ駆除の薬剤は1950年代からの歴史がある。

・現在主流の薬剤の一部としてネオニコチノイド系、合成ピレスロイド系、ホウ素系、IGR剤などがある

・近年の薬剤は共通して遅効性、非忌避性、安全性、耐アルカリ性といった特徴がある

・ミツバチなどの昆虫への影響から最新の薬剤が開発されている。

・最新世代の薬剤の種類はアルトリセット200SC、ターミドールHE、タケロックSC400、ネクサスピュアなどがある

・何を選んでも安全性、殺虫性は高い基準ではあるが、自分の家の状況、家族の状況によって薬剤を選ぶことも大事


シロアリ駆除の薬剤というと「体に影響があるのではないか」と感じてしまう方も多いと思いますが、必要以上に気にする必要がないということがわかりましたね。

覚えておくと何かの役に立つかもしれません。


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